副作用の無いがん治療 – 近赤外光線免疫治療法

副作用の無いがん治療

「近赤外光線免疫治療法」という、米国立がん研究所(NCI:National Cancer Institute)の小林久隆・主任研究員が開発した治療は、近赤外線をあてることにより、副作用がなく、がん細胞をピンポイントで破壊することだできるそうです。また、必要な設備や薬品が安価なので、医療費の削減にも。

がん細胞だけに特異的に結合する抗体に、近赤外線によって化学反応を起こすフタロシアニンという色素(IR700)を付け、静脈注射で体内に入れます。抗体はがん細胞に届いて結合するので、そこに近赤外線の光を照射すると、化学反応を起こして1~2分という極めて短時間でがん細胞を破壊します。

抗体は、がん以外の正常細胞には結合しませんし、抗体が結合したがん細胞でも、この特殊な近赤外光が当たらなければ破壊されません。つまり抗体が結合して、かつ光が当たったがん細胞だけを破壊するという高い選択性を持つ治療法です。また、IR700自体は、1日で尿中に溶けて排出されるので、人体には無害です。

転移がんについては、以下の2つの方法があるそうです。

  1. がん細胞に光を当て、がん細胞を壊すと、いろいろながんの抗原(壊れたタンパク質)が一斉に露出します。正常の細胞は全く治療の影響を受けないため、すぐ近くにいる健康な免疫細胞がこの抗原を食べて情報をリンパ球に伝えます。リンパ球は分裂して、その抗原を持つ他の場所にあるがん(転移がん)を攻撃しに行きます。
  2. がん細胞を直接壊すのではなく、がん細胞の近くにいる免疫細胞ががん細胞を攻撃することを邪魔している免疫抑制細胞の中で主要な細胞である制御性T細胞を叩きます。この方法では、IR700を付けた抗体を制御性T細胞に結合させ、近赤外線を当てて壊します。するとがん細胞の近くにいる免疫細胞は邪魔者がいなくなるので直ちに「OFF」から「ON」に切り替わり数十分のうちに活性化してがん細胞を壊します。さらに血流に乗って全身を巡り、わずか数時間のうちに転移がんを攻撃し始めます。がん腫瘍内にいる免疫細胞はほとんどすべて、がん細胞のみを攻撃するように教育されており、免疫の効きすぎが原因になる自己免疫疾患のような従来の免疫治療で起こる副作用は起きません

この2つの方法のうち、制御性T細胞を破壊するほうが、転移がんへの効果が大きいことが分かっているそうです。

臨床試験の認可は2015年4月に出て、治療法の毒性を調べるフェーズ1は、頭頸部の扁平上皮がんで、手術をした後に放射線治療や化学療法をしても再発して、どうしようもない患者さん10人を対象に行われ、全く問題なく終了。現在は30~40人の患者さんを対象に治療効果を調べるフェーズ2に入ったところだそうです。この治療法には副作用がなく、抗がん剤のような蓄積量の上限もないため、何回でも繰り返し治療することができるそうです。この先、フェーズ2を300人程度まで拡張して、治療法としての認可を受ける予定だそうです。

全身のがんの8~9割はこの治療法でカバーできるようで、2019~2020年ごろには、一派的な治療になっているかも?

「近赤外線でがん細胞が1日で消滅、転移したがんも治す ――米国立がん研究所(NCI)の日本人研究者が開発した驚きの治療とは 」の記事参照。